2017年8月の私的シネマランキング (No.1 ~ No.13)

f:id:nighttimepicnic:20170825021539j:plain

私が8月に映画館で鑑賞した新作映画について、個人的によかった順番に並べて感想をまとめました。

8月に観た新作は短編も含めると36本で、これは1回の上映で長編1本と短編1~2本をセットで鑑賞できるMOOSIC LABの全8回に通ったのが大きくて、こんな本数になっているのですが、MOOSIC LABで上映された全18作品については前回の記事で全てまとめたので、今回の記事で取り上げるMOOSIC LAB鑑賞の作品は上位8本に割愛しました。

ということで、今回は26本の映画について鑑賞記録をまとめてあります。

 

こうして振り返ってみると8月は驚くほど充実した映画月間でした。

個人的に現時点で今年一番の映画となった『少女邂逅』を始めとした、ムーラボ鑑賞作品の目を見張る充実度に加えて、劇場公開で観た作品もいつもの月よりずっと魅せられた作品ばかりでした。

特にトップ5の中の4作品がK's cinema上映作品で、K's cinemaが強すぎた8月でした。(贔屓とか通いまくった愛着とかは一切なしで、純粋な結果としてそうなりました。『隣人のゆくえ』はホントに凄い。)

 

では、以下8月に観た新作の私的ベスト1位からです。

 1.『少女邂逅』 

以上の感想は、MOOSIC LAB 2017の一周目で本作を観た(試写会を除けば公開初日)直後に、あまりの感嘆と感銘に何を書けばいいのかも整理がつかない状態でフィーリングそのままを綴ったものだったけど、後から落ち着いて回想するとさらに素晴らしさが次々と溢れ出してきた。

本作は思慮深い着想による多角的な観点が持ち込まれながらも、それらが惚れ惚れするような手さばきによって、ひとつの次元に集約されている。その象徴が、一見観に来る人を選びそうな『少女邂逅』というタイトルだ。

これは、第一の意味として『少女蚕』であり、それは「少女蚕」とも「蚕少女」とも形容できるモートラ世理奈演じる「紬」のことを意味している。

さらにそれはどんな「紬」かというと、保紫萌香演じる主人公の「ミユリ」の視点が捉えた、「ミユリ」の目で見て、「ミユリ」の中で思い描かれた「紬」のことを意味している。本作での「紬」の描かれ方は常にそうなっている。だから「紬」の本心も秘密もかなりミステリアスな映り方として「ミユリ」にも観客にも迫ってくる。それは本作の大きな魅力だ。

だから先に掲載した感想の中で、『キャロル』を上げていたことはやはりあながち外れではないのではないかとも思う。あの作品も「(物語の語り手である)テレーズの目線から見た『キャロル』のこと」という意味で、『キャロル』というタイトルになっているので。(さらに2人で逃避行的な旅行に駆け出したり、その旅の帰着という点でも、やはり『キャロル』と近い要点があり、よりいっそう私の心を奪ってならない。『少女邂逅』はストレートに恋愛の映画ではないけれども。)

そういうわけで『少女邂逅』とはまず第一に「紬」を意味しているのだけど、「蚕」を「思いがけなく出会うこと、めぐりあい」を意味する「邂逅」に当て字変えすることで、「そんな「少女蚕」or「蚕少女」である紬とめぐりあったこと」という、より「ミユリ」の立場を主体とした観点を添えることで、二つ目の意味を生み出している。これは見事なダブルミーニング

そして、そうした意味で捉えた時に伴う、切なさやノスタルジー、そしてそんな中にある凛々しい希望が、切に胸に迫まってくるところが本作の大きな魅力だと思う。そう思うときに、『少女邂逅』という物語は、ここで描かれる数年後に大人になった「ミユリ」が、蚕のような特別なひとりの女の子とめぐりあい、共に時間を過ごした唯一無二の1年間について思いを馳せながら、切なさと喜びがない混ぜになった思い出の中の出来事たちにもう一度胸を痛めながら手を伸ばす。そういった、既に喪失した季節を振り返るような視線も感じさせ、それがスリリングでミステリアスなムードとして現在進行形のストーリーに魅惑的な緊張感をもたらす。

さらに『少女邂逅』というタイトルには第3の意味があり、それは前2つの物語上の視点とはまた違うところにある『少女・蚕』、さらには『少女≒蚕』という作品全体に込めれたメッセージ的な意味ではないだろうか。

蚕はシルクの生糸となる繭の生成が終わると、繭ごと茹でられて本体は殺され捨てられてしまうと、生物の授業でクラスメートと一緒に教わるシーンは印象的だ。また「紬」は蚕について豆知識が豊富で、その中から「ミユリ」に事あるごとに披露していくが、「蚕を育てるときに一匹一匹狭い部屋に区切るのは、近すぎる場所で壁もないと、お互いが吐き出す生糸で絡まり合ってダメになってしまうからだよ」といったそれらの言葉が、女子学生である自分たち自身のことを示唆していることは観客の誰もが感じ取るはずだ。

少女の特別で繊細な(まさにシルクのような)美しさは消費され消耗する宿命にあり、小さな世界に囲われたまま外の世界には逃げられない。そうした、少女に対する解釈の在り方を、時に蚕に、時に学校生活や家庭生活に当てて、絶妙に描いて見せるのが本作だ。一方で、『少女≒蚕』なのだろうか?という問い掛けや問題提起を常に共存させている点が、本作に深みをもたらしている。決して消費されない美しさとは何であったのか、狭い視界の世界で仕方なくやっていたあなたを外の世界へ連れ出してくれたものは何であったかと、生きるべき少女と死すべき運命にある蚕との対比を用いて訴え掛ける。

こうした多角的な魅力を、惹き込まれてやまない繊細で美しい友情の物語に集約させた本作に私は大いに打たれた。

学校では酷いイジメにあい、家では実家から地元の大学に通う進路を一方的に決めつけてくる親に辟易する、美しさとは対極にある世界を生きていた少女が、絶対に手放したくないものを初めて見つけたことで変わっていく姿。それをこんなに親密な切なさいっぱいに描けるなんて!

 

2.『隣人のゆくえ あの夏の歌声』

 

3.『少女ファニーと運命の旅』

 

4.『聖なるもの』

 

5.『なっちゃんはまだ新宿』

 

6.『わさび』

現在、ユーロスペースにて9月15日まで上映中の「映画監督 外山文治短編作品集」。新作の『わさび』と『春なれや』の2本に、2010年の傑作『此の岸のこと』を加えた3本立ての上映となっています。私は『此の岸のこと』も今回の特集で初めて観て、その図抜けた素晴らしさに衝撃を受けました。しかしながら7年前に公開された作品ということで、『此の岸のこと』は今回のランキングに入れていません。また、その分を『わさび』に加点するようなこともしていません。『わさび』単独でもこれだけ優れた、大変得難い映画体験でした。一方で『此の岸のこと』についても感想を残していましたので、せっかくですので『わさび』に併せて掲載します。

 

7.『ヒトラーへの285枚の葉書

 

8.『俺たちポップスター』

 

9.『アメリカから来たモーリス』

 

10.『ベイビー・ドライバー

 

11.『ぱん。』

 

12.『BEATOPIA』

 

13.『エブリシング』

 

私的14位から26位まではこちらを。

 

・2017年上半期の私的ベストシネマ 

・2017年7月の私的ベストシネマ