2015年上半期の私的ベストミュージック 10選

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2015年も折り返し地点を迎えましたので、上半期に聴いた音楽のまとめをしておきます。 この上半期の作品の中からフルアルバムもミニアルバムもシングルも区別なしに、超私的な感覚に基づいて1位から10位までを勝手に選びました。

それでは10位から。

 

10. Alabama Shakes『Sound & Color』

 



まずこの曲、アルバムの1曲目でもありタイトル曲でもある「Sound & Color」を聴いて「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!この1曲目!!!!!めっっっっちゃ“傑作の1曲目感”がしすぎる!!うわ~名作の予感全開すぎてうずうずする~~~こりゃ1曲目だけで傑作確定だわっ!!」って多くの人がなったはずだし、私もそうだった。そして世の中はその予感のまま、すぐに傑作と断定したみたいだけど、私は違った。

前作の1stアルバム『Boys & Girls』で大好きだった「I Found You」や「Hang Loose」や「Be Mine」や「I Ain't The Same」のムード、つまりセンチなスウィートソウル要素が根こそぎ刈り取られていることにショックを受けた。その替わりアルバムの大半を占めたのが、ソリッドなギターリフとスリリングで扇情的なグルーヴ感で、シャープさとねちっこさをハードに同居させたへヴィなロックンロール。彼女たちが『Boys & Girls』でブレイクする前からArctic Monkeysのアレックス・ターナーがこのバンドを絶賛していた理由が、むしろこのアルバムを聴いて丸わかりした。だってこれ、思いっきりArctic Monkeysの『AM』に対する本家からの回答みたいな作品だし。で、カッコいいけど、自分の好みから外れたショックでその時は良さを実感する余裕もなく、一度は放っておいてしまった本作。

だけど、ある日、やたらスカッともやもやした気分をふっとばしたい気分に犯された時があり、ここぞとばかりにもう一度聴いてみた。その時そこにはあったのは全編に渡りクソ暴れん坊ハートにぐっと迫る、どこまでも生々しく心を蒸発させスカッとさせる、ガチでリアルなロックンロール体験だった。いきり立ったすべてのサウンドと歌が最高にカッコよて、音の世界に呑み込まれる。表立った甘茶ソウルテイストはほとんどなくなったけど、そういうものだと思って聴けば、これは極めて優秀な中毒性の強いドラッグだ。今となっては、聴き応えの濃い音楽体験を耳が欲した時には、迷わず第一に本作を体内へと垂れ流しまくってる。そのたびに私は例外なく痺れまくっている。

 

 

9. Shura 『2Shy』- Single

 



国籍もメジャーもインディも問わず、世間ではとにかくシンセポップとかエレポップがこれでもかと氾濫してるけど、私は賑やかなのは苦手で、Electric Youthみたいな淡くて澄んだ弱々しい情緒が儚げにキラキラと滲む、シックなセンチ系エレポップが大好物でありますので、このUK女性SSWが放ったソフィスティケイテッドソングはまさにど真中。そして歌詞も最高とはこれまた…。しかもタイトルが「2Shy」で、昨年のTOPSのグッドナンバーと一緒なのもいい。この上半期のエレポップ、私的ナンバーワン。今後のアルバムにも期待。

(シックなポップミュージックに出会えることは、洋楽を楽しむ上での大きな醍醐味ではないかと私は思っています。日本の場合、音楽市場におけるポップミュージック=ティーン向けのものばかりっていう性格が極端に強すぎると思うので。大人でも聴けるポップスというものが海外では当たり前のように根付いてる印象。そこが羨ましいんですよね…)

 

 

8. Tobias Jesso Jr. 『Goon』

 



個人的に2015年上半期を代表する“グッドソング集”。27歳の時に始めたというピアノを弾きながら等身大の感傷を不器用なほどピュアに歌い上げるカナダ出身の男性SSWのデビュー作は、ピアノやアコースティック楽器中心のしっとりとしたシンプルなバンドサウンドを背に、繊細さとみずみずしさを同居させた優しい歌声でメロディアスな楽曲の数々を披露した愛すべき良作。ソングライターとしての才能が目を引く、“全編に渡って良い曲の詰まったエバーグリーンなSSWアルバム”、その2015年代表盤。

 

 

7. Stoondio 『Plural』

 





もう~~~好きすぎる!!!タイの女性インディポップデュオによる、この上半期、私がもっとも澄んだ美しさを見出したポップアルバム。彼女たちの音楽、そしてアートワークやMVから伝わるこのセンスが、もう一度言うが、好きすぎる。この春に出会った『破裂するドリアンの河の記憶』という素晴しい映画に登場する「タイ語は響きが美しくて好き。雨の中の旋律のよう。」という少女の囁くようなモノローグを思い出さずにはいられない、タイ発の凛と可憐に光を放つ儚いインディポップに、私の日常で擦れた心もすっかり丸め込まれました。何度も言うが、、、好きです。

 

 

6. Miami Horror 『ALL Possible Future』

 



待ちに待った新作。アルバムとしては後半に尻すぼみ感が否めずバランスはよくない、が!!!これはもうそれだけ前半が目が覚めるがごとくあまりに素晴しいということ。1曲目「American Dream」から5曲目「Wild Motion (Set It Free)」までの流れは最高に洒脱で垢抜けたアーバンポップアルバムとして果てしなく理想的。この上半期、本作ほど部屋を出て街へ飛び出したくなる音楽作品はなかった。ワクワクした爽やかな気分が生き返る、それがどんなに尊いことかを教えてくれるソフィスティケイテッドなエレガントポップ。GWの最高のBGMをありがとう!夏の最高のBGMとしてもよろしくお願いします!とにかく土曜日とか日曜日とかバケーションとかには、最高の効果を発揮してくれるアルバムです。

 

 

5. Sjowgren 『Seventeen』- Single

 

 

US発の女子1人と男子2人からなるスリーピースバンドが放ったこの実質的なファーストソングが、私にとって2015年上半期最高のギターロックチューン。賑やかで浮かれたようなギターロックは好きではないけど、涼しい風が吹いてるモノクロな心象風景を添えたギターロックには心底惹かれてやまない。本作はそのイメージを見事に100%体現してるナンバー。隅から隅まで、全部が好き。ここにあるのは、私がずっととても大切にしたいフィーリング。聴きたかったのは、まさにこれ。なんとかギターロックへの愛想が尽きる前に出会えてよかった。応援します。

 

 

4. Fickle Friends 『Velvet』- EP

 



女性ボーカルのインディポップバンドによる4曲入りEPですが、全曲が本当に素晴らしい。どの曲もスムースでメロディアスなボーカルと、ほのかにダンサンブルな煌きが程よくまぶされたエレガントなサウンドとの相性が抜群に垢抜けていて、私の好きなパターンのど真ん中。個人的に4曲の中でももっともキラーなラストの「Shake Her」がweb上で試聴用で公開されていないのが残念だけど、もうホントに上の曲が好きなら買って損なしな1枚です。

 

 

3. I'm From Barcelona 『Growing Up Is For Trees』

 



2011年の前作『Forever Today』はダンサンブルな弾むビートと大所帯のバンドらしいエモーショナルな歌声の重なり合いがキュンとくる最高のインディポップアルバムだったけど、本作『Growing Up Is For Trees』で彼らが披露してるものとはインディ“ポップ”というよりもインディ“ロック”と言いたくなる(それでも十分にポップではあるが)、前作とは趣を変える、バンド感が強く、よりエモーショナルで、シリアスなオーラとも恐れずに向かい合った強力な感動作だ。そして全曲に張り巡らされたクオリティの高さにも驚く。『Funeral』の頃のArcade Fireが好きなリスナーには自信をもってお薦めできる名作に仕上がっている。極端に華やかでポップか、やたら渋いか、80年代とか90年代の面影全開かで、エモーションもシリアスも堂々と受け止めて、まっすぐな歌声とバンド感で真っ向勝負したバランスの良いロックの良作が少なくなっている気がする近頃だからこそ、この誠実なインディロックグループとしての意思表明はなおさら貴重に思う。前作の軽やかさがないことで評価を分けるとは思うが、私的にはI'm From Barcelonaの最高傑作だと考える。このガチさとポップ感のバランスは全力で推したい。

 

 

2. Kendrick Lamar『To Pimp A Butterfly』

 



もはや化け物みたいなアルバムである。いや、ホントにこれはもう異常!究極、果ての果ての果て!何がそんなにそうかというと歌詞なんだけど、果たしてここまで克明に、徹底的に、ひたすら巧妙に、恐れを知らずに(いや、もう彼はだれよりもその苦しさと痛みと地獄さを知っている、だけど、それをわかっててそれを自分から実践する、つまりこういう歌詞を書く。)何から何まで駆使し尽くして、人間心理と社会の本質を解き明かし、ぶちまけて、完遂した作品があるだろうかと。

個人的はここまで歌詞に捕らわれてしまったのは2011年のFleet Foxes『Helplessness Blues』以来。(この2作って全然繋がりがないようでいて、最終的に歌詞のテーマはめっちゃ近いと私は見る。まぁつまり私がそういうのが好きなんでしょうが。)というか衝撃という意味なら今まで聴いた全てのアルバムの中でもダントツくらいでナンバーワン。いやいやいや、本当にこのアルバムの歌詞は異常!いや、私も初めて聴いたとき、前半は歌詞についていえば(音楽的な面ではめっちゃ深みを増して最高になってたけど)前作『good kid, m.A.A.d city』の方が良くできてるなーと思った。前作では序盤から展開されたストーリー性が本作にはなくて、前半の曲はどれも歌詞の内容が近い気がしたし。それが聴き進めるうちに徐々に、ラッパーであり、アフリカン・アメリカンである彼自身の内面吐露の向こうに普遍的な人間心理や社会の姿が像を結ぶようになり、ラストの「You Ain't Gotta Lie」~「I」~「Mortal Man」の流れにはあまりの容赦なさと極限まで磨き抜かれた彼の知性と描写力に何もかも忘れて、ひたすら夢中で言葉の向こうに食い付いてる自分がいた。

音楽的にも素晴らしいアルバムだけど、一度歌詞を見ながら聴き通してしまうと、もうそんな風に感じ取る余裕すら奪われるほど、尋常じゃない掘り下げ具合。1枚の音楽作品の中で『雪の轍』を一人で全役演じてしまったような作品。音楽のアルバムを聴いた、というよりは壮絶な舞台を鑑賞したような観応え、いや聴き応えの残る作品。ここまで文学的なアルバムはそうそうないと思う。

 

 世間はお前をリスペクトせず、文化はお前を受け入れない

 でもすべては愛とか思ってる

 彼女に無視されたらお前のパロディはおしまい

 作り物の評判はお前を守っちゃくれない

 嫉妬(コンプレックス)、感情的、自己憐憫、自己宣誓

 この部屋で一番目立ってるのがな、ニガ、コンプレックスなんだよ

 本題に戻そうか

 

「You Ain't Gotta Lie」という曲の一部分。これを母親が自分に向けた言葉として母親の役を演じながらラップしている。

 

 俺のこと信じてるかい?それとも騙してるのかい?

 君の期待を裏切るのは簡単だ、君の心は決まっているのかい?

 その笑顔は永遠なのかい?その誓いは一生モノかい?

 次のラインで俺が命尽きても、どれが説教だったか分かるかい?

 俺が法廷で裁かれることになっても、俺が業界に干されても

 政府が俺を殺したがっても、俺の車内にコカインを忍び込ませても

 俺を麻薬常習犯と批判するか

 それとも俺をケンドリック・ラマーという人として見てくれるのか

 それとも俺の性格に疑問を抱いたり、そこら中のブログで侮辱するのか

 ネルソンみたいに俺を愛して欲しいんだ、ネルソンみたいに

 俺を抱きしめて欲しい

 俺は頭の中の奴隷状態から君を解放したんだぜ、どういたしまして

 俺の曲は曲以上の意味があると言ってくれたよな

 もちろんありがたいことさ

 でも預言者は預言者じゃない、君にこの質問を問うまでは

 何が起こっても、まだファンでいてくれるかい?

 何が起こっても、まだファンでいてくれるかい?

 

ラストの12分の大曲「Mortal Man」のホンの一部。ずっとこういうレベルの凄い歌詞が解き放たれ続けられる。そしてそのまま2パックとの対談に突入する。本当に日本盤を買う価値のある1枚だと思う。

 

 

1. cero『Obscure Ride』

 



2015年上半期の私的ベストミュージック、ナンバーワンは、ceroの3rdアルバム『Obscure Ride』。Kendrick Lamarのもうこれ以上どうすればいいの??ってくらい、恐ろしいほどの破壊力(決して暴力的だったり、サウンド的に激しいアルバムではないけれど、あのアルバムの圧巻さに対してはもうその言葉しか浮かばないほどで…)を差し置いてなお、本作の素晴らしさは何か新しい感覚/価値観さえ覚醒させるほど目を見張らずにはおれない孤高のもので、個人的にはこの10年の日本の音楽作品の中で一番の傑作と思ってるほどだけど、だからといってそれがこれ見よがしな仰々しさではなく、むしろそれとは対極の、軽妙なヴァイヴに貫かれた、一瞬一瞬の音楽としての純度の高さ、作られた音楽ではなく、奏でられ、放たれた音楽としてのライブ感、それはまさしく歌詞にも共有されており、歌の歌詞がライブとして音楽と共に想像の中でシーンを描いていく臨場感、とにかくそこで起こるすべてが音楽の理想である、と、私はもうそんな風に感じている、この作品には。

ヒップホップやソウルミュージックがその区分の溶解しきったストリームとしてジャジーで豊潤なバンドサウンドによって練り上げられているが、これまで日本の音楽市場の上で創造されたどんなソウルやヒップホップよりも、ここにはブラックミュージックと親密な音触りをもったソウルミュージックやヒップホップが奏でられている。一瞬一瞬が味わい深く、生き生きと息づいていて贅沢だ。今まさにここで音楽というドラマが進行されていることが絶えず実感できるアルバム。そこで生み落とされる歌詞も、そういった今目の前で変わっていく、始まって終わっていく、景色や出来事や心情をそっと見つめるように動きのあるイメージを描写していく。

決して型にはまることはなく、些細な時間の内に揺れ動き、彷徨っていく人間の感覚や心に、一番シンクロする音楽。そのもっとも豊かで、心地よいエネルギーと自由な詩情に満ちた2015年に打ち立った金字塔。ceroの『Obscure Ride』は音楽も言葉もほとんどが子供騙しみたいな飽和し尽くした世界でも、なお、冒険心と知性を駆り立てる本物の興奮がそこに見出せると当然のように見せつけ尽くした音楽そのものの本質を手にした偉大なアルバムだと確信してやまない。

 

というわけで、2015年上半期の私的ベストミュージック 10選でした。

 

ちなみに、この上半期に私が一番聴いたアーティストはアメリカのソウルシンガー、Wilson Pickettでした。
今年のお正月頃に日本公開されたパトリス・ルコント監督の新作『暮れ逢い』を機に、彼の旧作を観ていく中で遭遇した2006年の作品『親密すぎるうちあけ話』。その挿入歌として流れるWilson Pickettの「In The Midnight Hour」に一瞬にして恋に落ちてしまい、彼が残した偉大なるディスコグラフィーを一気に辿った今年の冬~春でした。ホントにすべてのアルバムが良いですが、やはりその中でも『In The Midnight Hour』は極上です。



最高の曲、最高のパフォーマンスすぎる。『親密すぎるうちあけ話』の中でも徹底的に堅物で面白みのない、真面目一筋の税理士が、意中の女性からホンのちょっと気にかけてもらえるような一言を貰えただけで、踊りだしたくなるくらい舞い上がる、そんな瞬間に一貫して静かな映画の雰囲気をぶち破るようにこのソウルフルなラブソングが盛大に鳴り響いて、この上ない使い方をされていて。

そんなことがきっかけで一番好きなヴォーカリストのリストにWilson Pickettが加わった2015年の上半期でありました。

長々と書いてきましたが、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!