U2のニューアルバム『Songs of Innocence』について

f:id:nighttimepicnic:20140910204453j:plain

 

私は、U2が30年以上にも渡って隙のないほど魅力的で、見事なまでに物語的なキャリア、つまりディスコグラフィーとツアーヒストリーを築き上げてきたことと、彼らがアイルランド出身であることは『地理的な』意味でも大変見逃せないポイントだと思っている。

彼らの故郷であるアイルランドは、デビュー前の下積み時代からバンドに常々続くことになる「アウェイ戦」を要求した。

2001年にアイルランドで行われた凱旋ライヴを収めたDVD『Go Home』で、1stシングル曲「Out Of Control」を演奏する際にボノが語るMCでも明らかにされるように、バンドでの成功を志すアイルランドのティーンネイジャーがまずしなければならないことは、ロンドンまでの交通費を工面することだった。そのMCではメンバーが各々の親たちに頭を下げてなんとかロンドン往きの切符を手にした話が語られる。

このようにアイルランドを出身地にもつU2にとっては、曲を作って人前で披露する、そんなバンドなら当たり前のことすら交通費のかさむ遠征が前提の「アウェイ戦」として成立するものだった。だがしかし、それは逆説的にいうなら彼らの定義するバンド活動・音楽活動とは最初からそれくらいのスケールを求められるものだったということなのだろう。

 

そしてU2というバンドは、このアイルランドを故郷にもつことでバンドの出だしからその身に刻まれることになった“バンド活動・音楽活動=アウェイ戦”というテーゼを常にバンドの最優先テーマとすることによって、ロックバンドとして破格の実績・成功と支持をその後30年にも渡って保持することになった。

ロックミュージックが“ロック”として機能するのは、その当事者がアウェイの地で苦闘に挑んでいる瞬間に他ならない、という事実も彼らの連続する成功の歩みからは読み取れる。

U2の歩みが

①イギリスでの挑戦(『Boy』~『War』)

②アメリカとの邂逅・世界との闘い(『The Unforgettable Fire』~『Rattle And Hum』)

③80年代の自らを仮想敵とするようなキャラクター反転・コンテンポラリーミュージックとの融合(『Achtung Baby』~『Pop』)

④90年代のアイロニーとの決別・名実ともに世界一のロックバンドを正攻法で背負う覚悟と挑戦(『All That You Can't Leave Behind』~「Window In The Skies」)

と、とても物語的で分かりやすくターム分けで語れるのも、彼らが分かりやすいほどガチな「アウェイ戦」を常々自らに課してきたからである。

 

2000年代の半ばには『How To Dismantle An Atomic Bomb』を引っ提げたVertigo Tour、オールタイムベスト盤『U218 Singles』、すべての歴史を詰め込んだ公式ヒストリーブック『U2 by U2』、そして総括ムードが決定的となった新曲Window In The Skies」と、有終の美という形でバンドの輪が閉じようとしている向きも感じられた。

なので、2009年に前作『No Line On The Horizon』がリリースされたときは本当に感動したし、心から嬉しかった。

バンドが解散せずに新作を出したからではない。もう、そんなことすら言ってられなくなるほどNo Line On The Horizon』とは、完全に地位を築き切った50歳の大御所バンドが、だがしかし未だに自らを「ザ・アウェイ戦」へと持ち込み、戦っているアルバムだったからである。いや、もうNo Line On The Horizon』に至ってはアウェイ戦というよりも、U2U2からとにかく外へ飛び出そうとしてるアルバムですね、U2U2からのアウェイを試みたアルバム。そうしたら抽象的で伸びやかなソウルアルバムになったと。うん、だから前2作と比べると全然売り上げが伸びなかったのもある意味では理にかなっているというか、でもそういうアルバムでこそ多くの人に訴えかけたいと思っているのがこのバンドの良さであり、彼らがこのアルバムについて悔しかったのもそこにあるのでしょう。

 

で。いよいよ今回の『Songs of Innocence』となるのだけど、前置きをこれだけ書いておいて結論からいうと、もうアウェイ戦へと疾走していく彼らの姿は、このアルバムからは窺えないということだ。そして、きっとそれは彼らが本作で身につけた新しい「闘い方」であり、つまり、今後の彼らはそういう「闘い方」をしていくのだろうなと予想できるということだ。

繰り返しになるが、U2は前のアルバムもしくは前のタームで築いた足場をホームとするなら、次作においてはそこからアウェイとなるフィールドに自分たちを置いて自らを表現することで明確な変化を長年に渡って実現してきたし、U2というバンドはそういった変化を汲んで語られることにより今日まで評価をされてきたバンドだ。本人たちもアルバムやツアーの制作時にはデビュー当時から常々そのことを意として活動を行ってきた。

その結果連なってきたU2というバンドの「変身ゲーム」・「成長物語」は、前作No Line On The Horizon』と今作『Songs of Innocence』の間で明確な区切りを迎えた。自分たちの世界から外へ外へと飛び出すように、抽象化も厭わず壮大なスケールを描いたNo Line On The Horizon』と、あくまでU2ナンバーとしてのフォルムを保持しようとする明確なギターフレーズが引率する楽曲が並んだSongs of Innocence』は非常に対照的と感じる。アウェイに挑むU2というよりも、ホームで果敢にロックミュージックに挑むU2という印象だ。

U2は記念すべき1枚目のシングルが「Out Of Control」と名付けられた曲で、1stアルバム『Boy』は1曲目の「I Will Follow」が象徴的なように生と死の境界線についての思いがぶつけられたアルバムだ。さらに代表曲「Where The Streets Have No Name」や前作『No Line On The Horizon』、さらには「Window In The Skies」といった曲に象徴的なように、境界線を超越すること、枠組みから解き放たれることを常にメインテーマに扱ってきたバンドだ。U2がロックミュージックの力学に焦がれ、またロックのマジックも彼らに力を貸すのは、彼らが境界線を超越しようとするときに理性を超えた力を果てしなく欲するからである。

しかしながら今回の新作『Songs of Innocence』では、そういった境界線を破壊し、向こう側へ乗り越えようとするクレイジーな力学も行使されているようには感じられない。そもそも、もはやそういったことを目体とはしていないようですらあるのだ。

 

ここまで読むと新作『Songs of Innocence』のことを大層ネガティヴに捉えてると思われるかもしれないけど、決してそうではない。

ここでU2はこれまでのキャリアとは明確に「闘い方」を変えてきた、と明確に書き残したかっただけ。ものすごく大きなことだと思うので。

 

少し疲れてしまったので(苦笑)でもせっかくなので最後まで書き切りたいのでここからはラフに書きますけど(苦笑)、まず率直に言って本作『Songs of Innocence』で見えるバンドの音楽を作り出すプレイの様子、4人の戯れって、『Boy』~『October』の創造的余韻を常に残してるようなラフさを彷彿とさせるし、ボノが歌い上げるメロディーラインもどこか不器用なエモーショナルさを感じさせるところが『Boy』~『October』~『War』の時期を思い出させませんかね。そしてさらにデンジャー・マウスのプロデュースによる化粧っ気のない近年稀にみるどこかガサツ感のある音触り。『Medium, Rare & Remastered』で聴けるデモ音源の質感あるじゃないですか。つまり、スタジオライブっぽい音のバランスというか置き方。

そしてこれ。

f:id:nighttimepicnic:20140910224115j:plain

今年度のU2.comの有料会員特典はバンド初期の回想録ブック『North Side Story : U2 in Dublin 1978-1983』。

で、幾つかの曲名やボノの発言からも分かる思春期・青春期回顧の側面。「The Miracle (Of Joey Ramone)」の歌詞、ホントじ~んとくるわ。

 

つまり、No Line On The Horizon』のように外へ外へと向かわなくなったからU2は良くなくなったということが言いたいのではなく、今回の『Songs of Innocence』で目指された目標自体が、内側への探索と今描き得るセルフポートレートだと。つまり最初期以来、初めて『ホーム』なんです。じゃあ『All That You Can't Leave Behind』はなんだったのっていうと、確かにそのツッコミも分かるし「Walk On」における“Home”の定義はあのアルバムにおいてとても意義深い。でもAll That You Can't Leave Behind』と本作は全然違うわけで、まったく「Home」の意味するところが両者は異なっている。

素の自分たちに対してセルフポートレートをやったのは『Boy』以来今回が初。

そして私は、U2がこれからはそういう挑み方でバンドをやっていくんだろうなと感じた。U2は『ホーム』で自分たちを見つめていくし、表現していく。でも、だからダメってことにはならない。今年、ローリング・ストーンズを観て帰りには思わずミック・ジャガーのポラドイドセットを即買してた自分としては。

U2ファンを続けたいなら、このバンドのこのタイミングにおける変化を歓迎しようと思う。

初日の感想は以上。

また。

 

 

※リリースから3週間後に改めて本作について考察してみた記事がこちらになります。