Electric Youthのデビュー・アルバム『Innerworld』は、エレポップ史に慎ましくも歴然と名を残す堂々の傑作

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9月30日にリリースされた米ロサンゼルスを拠点に活動する男女エレクトロ・ポップ・デュオ Electric Youthのデビュー・アルバム『Innerworld』がとても良い。

とりわけインディ・ポップ好きのリスナーにとっては、2014年下半期の新作群の中でも見過ごせない一品といえる内容になっている。

 



こちらのアルバム全曲フル・ストリーミング試聴をお聴きいただければ分かるように、Electric Youthのデビュー作『Innerworld』に一番伝わり易い最大公約数的な形容をするなら、“淡くて儚い透明感に包まれたChvrches”なのだけど、それは気の抜けた投げやりな賞賛なんかじゃなくて、確かにChvrchesのデビュー作『The Bones of What You Believe』は素晴らしかったけど(昨年の私的ベストアルバムランキング3位に選んでました)個人的にごく自然に毎日普段聴きするには少しバキバキすぎる感もあった。その点、このElectric Youthのデビュー盤のデジタルサウンド特有の未来感を備えつつも、総じて淡く優しい音彩で奏でられた耳触りのナチュラルさは、日々が健やかなる時も荒波を立てる時も、どんなときも私の心を奪ってやまない。この1週間、一緒に購入した他の新譜を差し置いて、ひたすらこのアルバムを再生し続けてる自分がいた。一瞬で全身に溶け込んでいく、心で浴びる音色のシャワーのような音楽。その心地よさにすっかり虜になってしまった。

 



それにしても驚くほどに全編が良い楽曲で埋め尽くされたアルバムだ。ここまで粒揃いのフル・アルバムは私的に2014年他に類を見ないレベルと感じている。まぁ、それは好みに寄るところもとても大きいのだけど(苦笑)、例えば上の「Tomorrow」はアルバムで8曲目に置かれた曲で、それなのにここまでアルバム前半曲感があるという、アーティストの魅力を最大限に発揮した素晴らしい楽曲だと思う。絶えず一定のクオリティを保ったまま進行する小旅行のようなアルバムの一体感に惚れ惚れとしてしまう。

 

私が今年、本当の意味でベストだと感じられたアルバムは、Sean Nicholas Savageの『Bermuda Waterfall』やWunder Wunder『Everything Infinite』、ODESZAの『In Return』、Alice Bomanの『EP II』といった作品で、そこにはジャンルの違いこそあれ、淡さや儚さといったフィーリングが共通しているように思う。Electric Youthの『Innerworld』もまさにそういった作品で、そんな非現実と現実の中間で舞うような心の内側で密かに迫るエモーショナルなフィーリングで包み込まれた音楽は、音楽とは消えゆく今という時間の連続によって成立する“時の産物”であり、それを耳にしている自分自身の存在もまた同様にそういった“時の産物”として今ここにあるのだという事実を示してくれる。いつかは終わるそれぞれが抱えた時間、楽曲という区切られた時間、「私」という限られた命の長さ、喜怒哀楽と束の間で色彩を変えてしまう今の気持ち、そういったものが重なり合う、この宇宙の歴史で唯一無二の瞬間。そんな瞬間を捉えたときのBGMとして、今年の私は彼ら・彼女らの音楽を求め、素晴らしいと勝手に漏らす。儚く淡いロマンチックな瞬間は、儚く淡くロマンチックに。そんな思いを寄せながら、私が今日も再生ボタンを押す音楽、その、今年の秋の最高の1枚がElectric Youth『Innerworld』だ。

まーわけわかんないことを書いてきましたが、ホントに全曲いいです。すごい。とっても好き。